延々と続く石畳の階段は、修羅の道を思い起こさせます。
難所の頂上で安堵する。
馬越峠の峠の頂上へなんとか到着すると、尾鷲市が一望できます。
この旅で一番安堵した瞬間だったかもしれません。

馬越峠の頂上。尾鷲市街が見える
自転車担ぐのがしんどくて、何度何度も引き返そうか悩んだので。。。。
便石山「象の背」は断念。。。
馬越峠の頂上から西へ進むと、便石山「象の背」という絶景ポイントに行けます。
時間があればここも行ってみたいと思っていましたが、馬越峠山頂の案内板に
「便石山:2400m 徒歩120分」
とあったので断念。
馬越峠の石畳でズタズタにされていた、僕の心を挫くには十分なパワーワードでした
リアス式海岸の絶景
馬越峠のふもと、尾鷲市を抜けると、熊野街道は複雑に入り組んだリアス式海岸に沿いを進みます。
曲がりくねった道筋は、
など、自転車乗りには非常に厳しい地形。
しかし、小さな山を登り切った先に見える景色は圧巻。山と海の織りなす絶景を楽しめます。

対岸に見える山々は、離島ではありません。自分が走ってきたところです。
振り返ると随分遠くまできたなあと実感できるのも、リアス式海岸を走る大きな魅力の1つかもしれません。
海に注ぐ川の水が綺麗すぎる
熊野古道を走って驚いたのが、海に注ぐ川の水が綺麗すぎること。

三重県南部は海のすぐそばに山がある地形なので、山の清流が直接海に注がれていて、めちゃくちゃ綺麗です。
松本峠
馬越峠越え+リアス式海岸のアップダウンに足が限界を迎えつつも、なんとか本日最後の峠、松本峠に到着。
松本峠も美しい石畳が見られる峠でした。

松本峠の石畳
鎌倉、江戸、明治と時代を経て整備されてきた松本峠の石畳は、整備された時代によって特徴が異なるそう。
- 明治時代:加工された石が隙間なく敷き詰められている
- 江戸時代:自然のいしを活用して、坂の部分は石間を狭く、平坦部は石間を広くしてある
- 鎌倉時代:荒い自然石で、石間は広く空いている
時代によって石の加工技術が向上し、石畳も大きく変わっているんですね。
松本峠も石畳で自転車で行くのは少し大変ですが、馬越峠の3分の1くらいしかないので、そこまできつくはありません。
平日だったからかこの時はひと気がなくて、鹿と猿の影が林の向こうに見える。
猿の「キーッ!!!」という声に対抗して、
「なんじゃー!!」と大声を出してこちらの存在をアピール。
木曽の猿にはある程度耐性があるんですが、知らない土地の猿はちょっと怖いことがわかりました。 笑
ホームとアウェー見たいな感覚かな?
山頂には美しい竹林
ごちゃごちゃ考えているうちに、山頂に到着、
山頂近くでは、美しい竹林の道を歩けます。
東屋から世界遺産『七里御浜』と熊野市街を望む
松本峠山頂から東へ歩いて5分ほどの「東屋」は七里御浜を一望できる絶景ポイントです。

美しい海岸線はもちろんですが、これまで大自然の中を孤独に走ってきた自分は、熊野の市街地が見られて大きく安堵。
当時の旅人もこんなように熊野の街並みを見てさぞ安堵したのではないでしょうか。
熊野市街へ到着!!
松本峠を下ると、本日の目的地熊野市街へ到着です。
コンビニあり、スーパーあり、飲食店あり。
なんでも揃う現代の街並みは、熊野古道の異世界から旅立った自分が現代へと戻ったような感覚を与えてくれます。
世界遺産『獅子巌(ししいわ)』

海岸の隆起と海の浸食によって、獅子の頭の形に見える岩。
「日本のスフィンクス」なんて呼ばれているようです。
この獅子岩があるため、近くの大馬神社では狛犬を置いていないんだそう。
面白いですね。
ツインですが一人で宿泊させてもらいました。
一人だと若干料金上がりますが、それでも一泊5800円(食事なし)。
お食事はつきませんが、近くにお店はたくさんあるし、出前もOKなので困ることはありません。
丸山千枚田を目指すも、足が限界。。。
熊野市街についた時点でまだ16時台だったので、棚田の絶景で有名な「丸山千枚田」を見に行こうと、再出発。
しかし、丸山千枚田は熊野市街からは20km以上続く上り坂。。。。
延々と続く上り坂に、これまで酷使してきた僕の足が悲鳴をあげます。今日の自分には無理だと判断して、途中で引き返してきました。
また今度行きたい場所になりました。
2日目まとめ

2日目は快晴で、熊野の美しい景色を楽しめました。
山間部を走った先日から一転、今日は海岸線を走るコース。
熊野の海はすぐ山があるので、美しい海と山のコントラストを楽しめました。
8割がたは誰もいない山道を孤独に走るので、時折ある小さな港町が癒しポイント。
街ゆく人にあいさつすると、みんな笑顔で返してくれるので、元気をもらえますよ。
3日目:熊野市〜熊野速玉大社(約20km)
ついに迎えた最終日は、熊野から20km先の新宮市にある熊野速玉大社を目指します。
※記録アプリが37kmになっているのは、往復したため。
七里御浜海岸

熊野市〜紀宝町にかけて約22Kmにわたる日本一長い砂礫海岸。
伊勢〜紀伊長島までは内陸の山々、尾鷲〜熊野はリアス式海岸、そして熊野から紀宝町までは砂礫海岸と、伊勢路の景色はさまざまにその特徴を変えていきます。
変化に富んだ、本当に美しい世界でした。
本来の熊野古道は海岸自体
七里御浜海岸は『浜街道』と呼ばれ、海岸そのものが熊野古道の一部になっています。
自分は自転車なので脇の道路を走りましたが、本来は海岸を歩くのが正解です。
峠越えが続く伊勢路にあって唯一、海岸沿いを歩く平坦なコース。
自転車では走れませんが、歩くにはピッタリ。非常に贅沢な街道です。
熊野速玉大社
熊野川にかかる橋を渡り、和歌山県に入るとまもなく、今回の最終目的地の熊野速玉退社に到着しました。
全長170km(迂回したので200kmくらい)+6つの峠を自転車を担いでたどり着いた速玉大社。
非常に感慨深いものがありました。
清々しい早朝の境内に響くのは、鳥のさえずりと、住職がほうきでお掃除をする音だけ。
普段神様なんて信じないタチですが、この瞬間だけは神に感謝してしまいました。
でもやっぱりたどり着いた達成感より、この旅が終わってしまう寂しさの方が正直大きかった。。。。
そう感じれるのも、旅が安全にできる現代だからこそなんでしょうね。
昔の人たちはここまで来るのも命懸けだったわけで。
今の時代に何不自由なく暮らせていることに、感謝しないといけないなと。
Kokoro食堂

熊野速玉大社で今回の自転車旅は完結したので、熊野の地に住む友人と合流。
この地で人気のお店Kokoro食堂さんへランチに連れて行ってもらいました。
アマゴの南蛮漬けと石清水豚のトンテキ定食。
一年中温暖で雨量も多く、栄養たっぷりの熊野の地で育った最高の食材たちは、あっという間に胃袋に吸い込まれてしまいました。
自転車旅のデメリットのひとつだと個人的に思うのが、ご飯がいつの間にか消えてて味わって食べれないこと。
めちゃ美味しいものなのにがっついて食べて、すぐ完食してしまいます。笑
お米がツヤツヤしてたので、お米だけでも楽しみたかったのに、気づいたら全部おかずと一緒に食べ終わってました。。。
輪行で木曽路・奈良井宿へ

友人に熊野市駅まで車で送ってもらって、特急南紀号で長野県・奈良井宿へ帰ります。
旅の最後にもトラブル発生
携帯空気入れの破損に続き、ここでもうひとつトラブル発生。
自転車をパッキングした時に、エンド工具がないことに気づきました。
エンド工具:チャリのホイール外して、小さく運ぶ際に必要な部品です。
きっと初日、伊勢市駅で自転車を組み立てた際に忘れてきたんだと思います。。。。
仕方ないので縦置きの輪行袋に、無理やり横向きに入れて帰りました。
特急南紀はデッキが狭いので輪行に注意
伊勢勝浦〜名古屋を走る『特急南紀』はデッキが狭いので、輪行には注意が必要です。
特に2両編成の場合は1〜2号車間にしかデッキがなく、運転席前のスペースにチャリを置くのも難しいです。

自転車置けるのはこのスペース↑くらい。でもここに置くと自動ドアのセンサーが反応してドアが閉まらなくなってしまいました。。。

↑反対側はトイレと洗面スペースで置く場所がありません。

車掌さんに相談すると、車椅子の方の座席スペースを使わせてもらえました。
今日は空いているということで使わせてもらえましたが、ご利用の方がいたら使えないので注意です。
やっぱりできるだけコンパクトになるように輪行は縦置きの方がいいですね。
エンド工具など多少荷物は増えちゃうかもですが、他の乗客に極力迷惑にならないように。。。。
電車で来た道を振り返れるのも伊勢路の魅力
熊野古道・伊勢路はJR東海の紀伊本線とほぼ並走しているので、車窓から今まで走ってきた道を眺めて帰ることができます。
これも輪行旅の1つの楽しみではないかと思います。
辿ってきた道が一瞬で巻き戻されていくと、旅が終わることへの大きな寂しさが込み上げてきました。
「まだ終わって欲しくない、もっとゆっくり走ってくれ・・・・」
という僕の思いなど知る由もなく、特急南紀はどんどんと北上し、伊勢をかすめて終点・名古屋への道のりをあっという間に終了させてしまいました。
名古屋から奈良井へ
名古屋からは、見慣れた313系の電車で奈良井までゆっくりと鈍行列車の旅。

スマホに今回の旅行で感じたことなどを打ち込みながら電車に揺られていると、あっという間に奈良井宿に到着しました。
奈良井についた頃には19時半。標高950mの奈良井は、6月でも夜はまだ冷えます。

熊野市との温かさの違いを文字通り肌で感じ
「帰ってきてしまったなあ。。。」
と思うのでした。
旅を振り返って

熊野古道・伊勢路は170kmの道中にいくつもの顔を見せてくれました。
初めは伊勢街道、古い建物が点在する歴史ある街並みと古道。
そこから少し南下すると、美しい山々に囲まれた自然と田園の風景が広がります。
さらに進むと、リアス式海岸が織りなす山と海のコントラスト。
そして熊野速玉大社の目前では、七里御浜の美しい海岸と、朝日に照らされた穏やかな水面が迎えてくれました。
本当に全てが神秘的な道。
万物に神が宿ると考えられる日本において、熊野古道伊勢路は『祈りの道』の名に偽りなしです。
熊野古道と中山道

僕の地元を通る中山道も熊野古道と同じく古い街道ですが、それぞれの道の目的を考えると、当時の人の心情は全く違うところにあったのかなと思います。
熊野古道は熊野三山への巡礼道であり、自らの意思で歩かれた人が多かったはず。
一方中山道は参勤交代や商売など、必要に駆られて歩いた人が多かったんじゃないかなと。
そんな当時の人々の心情に心を忍ばせながら走ってきました。
中山道歩きが一区切りついたら、熊野古道もぜひ行ってみてください。
伊勢路の旅で何か聞きたいことがあれば、遠慮なく連絡ください〜
次回は中山道・鵜沼宿から京へ

前回の中仙道旅の終点、鵜沼宿
次回の旅は中仙道旅の予定です。
奈良井から岐阜県の鵜沼宿までは走破済みなので、鵜沼から西へ、京都三条を目指します。
どなたか一緒に行ってくれる方いらっしゃいましたらお声がけください。